アナタの狂気も明るみに…映画『ミッドサマー』ネタバレ感想&あらすじ

まいど、Leecaです。
今回は『ヘレディタリー/継承(2018)』の大ヒットが記憶に新しい、アリ・アスター監督の最新作『ミッドサマー』をご紹介。
ネタバレありで、ゆるりと感想・考察を綴っていきたいと思います。では、いってみよう。
映画『ミッドサマー』
■ ざっくり、あらすじ ■
原題:『Midsommar』
ジャンル:ドラマ、スリラー
脚本・監督:アリ・アスター
製作国:アメリカ
配給:A24
公開:米国⇒2019年/日本⇒2020年2月
上映時間:138分
大学生のダニ(フローレンス・ピュー)と大学院生のクリスチャン(ジャック・レイナー)のカップルは、その冷え切った関係に終止符を打てないでいる。別れを切り出したいクリスチャンであったが、ダニの身に突如降りかかった最悪の不幸によって、その願いも遠のいていくことに。
以来、表面的には交際を続けていた二人であったが、人類学専攻のクリスチャンは、3人の友人と研究も兼ねたスウェーデン旅行を、傷心のダニ抜きで計画。しかしその計画もダニにバレてしまい、最終的に彼女も同行することが決まった。
旅の目的は、スウェーデンの村ハルガで行われる90年に一度の夏至祭、“Midsommar”。やがてハルガに到着した一行を、村人たちは笑顔で迎え入れるのであったが・・・
映画『ミッドサマー』
■ ネタバレ感想 ■
↓以下、ネタバレありですのでご注意下さい↓
◎未知なる世界へようこそ
「もうすぐ何かが起きる」と、いきなり不穏な空気でもって幕を開ける本作。そして、その期待を裏切らない展開が冒頭から炸裂していきます。
躁鬱を患っていたダニ(フローレンス・ピュー)の妹が、なんと実の両親を巻き込んで無理心中。ホースが口に固定された状態で二酸化炭素中毒死を遂げた妹の姿は、あまりにも無残。言いようの無い強烈な気持ち悪さが、内からこみ上げてくるのを私は感じていました。
前作『ヘレディタリー/継承』でもそうでしたが、アリ・アスター監督は、この手の不快感を観客の腹の底から沸き立たせるのが本当に上手いんですよね。プロット自体は伏線も散りばめられていて非常に分かりやすく、なんなら先も読めるのに、なぜかゾクゾクしてしまう。吐き気に近い気持ち悪ささえ感じる。生理的な嫌悪感というのかな。
初めから全てを物語る絵
それは本作が、前作同様《儀式》を中心に進行していくからでしょう。《儀式》はそれ自体が仲間内のものである為、自ずと物語には得体の知れない奇妙さが付き纏います。ハルガのコミューンに属していない登場人物(や私たち観客)は、いわば部外者。「郷に入れば郷に従え」ではないけれど、コミューンに足を踏み入れた彼ら(そして私たち)には、おとなしくそこの掟に従うという選択肢しか残されていないのです。
逃げ場のない恐怖。
美しい大平原に延々と降り注ぐ太陽のもと、《儀式》の全貌を目の前で堂々と見せられ、暗闇や茂みに隠れることを許されない状況は、まさに生き地獄そのもの。
中盤で登場する初老カップルの投身自殺場面も、見たくないのに思いっきり見せられショックを受ける方は多いと思います。私も二人が死ぬことは予測できていましたが(下記*参照)、あんなに間近で細部まで見せられるとは思っていなかったので、なかなかの衝撃でした。「2発目要る!?」と思わずにはいられないトドメの木槌攻撃や、「名シーンをじっくり振り返ってみよう!」と言わんばかりの逆再生&スローモーション映像によって、更に得体の知れない恐怖に取り込まれていく感覚を覚えました。
何より眩い自然風景の映像がとても美しく、その場で見せられる残虐性とのミスマッチが対比としてうまく働いていたのが、不気味ながらも印象に残っています。
*前日、ペレがジョッシュ(ウィリアム・ジャクソン・ハーパー)に「ハルガでは人生を季節に準える」と説明している。0〜18歳は春、18〜36歳は夏、36〜54歳は秋、54〜72歳は冬の4区分。横で会話を聞いていたダニは、「72歳になったら何が起こるの?」とペレに尋ねるが、ペレはこれに死を意味する首切りのジェスチャーで答える。ダニはジョークと捉えて鼻で笑うだけであった。
◎不意の笑いは健在
とはいえ、あまりに常軌を逸した村人たちの行動には、幾度となく笑いがこみ上げてきてしまうもの。前作『ヘレディタリー/継承』でトニ・コレットが見せた般若フェイスも未だに忘れられませんが、本作においてもその「恐怖と笑いは紙一重」とする独特な描写は健在です。
そんなのアリ・アスター!?
(とダジャレも漏れる)
例えば、ダニの彼氏クリスチャンがドラッグを飲まされ、ペレの妹マヤとの性交を強いられるシーン。マヤと文字通り一心同体の裸女性軍団の大活躍によって、「一体何を見せられているのだろう?」と困惑、からの笑いが襲ってくる瞬間です。
そして、クリスチャンの行為を目撃し泣き崩れるダニを、これまた別の女性陣が一緒になって悲しむ場面が続きます。共感の嵐、嵐、嵐。意図はわかる。それでも初めて見る光景だったので、やかましいわと 動揺を隠せませんでした。
その後、事が終わり我に返ったクリスチャンが(追い打ちをかけるように)裸一丁で外へ猛ダッシュ。無防備な彼を不憫に思う一方で、あまりの絵面のおかしさにもう一笑い。アスター監督も役者さんもいたって真剣なのでしょうが(いや、監督に関しては眉唾ですが)、やっぱり恐怖と笑いは隣り合わせだと感じた瞬間でした。アスター監督の作品は、そういった点からもエンターテイメント性に富んでいて好みです。
また(まだあるんかい)、最後に熊の着ぐるみを着せられるクリスチャンにいたっては、変な白い粉を吹きかけられ全く動けないものだから、余計置物(ぬいぐるみ)のようで可愛らしく、なんだか滑稽にさえ見えましたね。
◎喪失と再生
アスター監督は、本作は自身の実体験が基になっていると明かしています。前作『ヘレディタリー/継承』が、ホラー映画に区分されながらも「家族」をテーマにした物語であったように、本作もまた「家族」「恋愛」が物語の根幹を成していることがわかります。
実はアスター監督、私生活で実の弟さんを亡くしているのですが、当時長く付き合っていた彼女ともその後破局をしています。つまりこのことから、ダニ=アスター監督、クリスチャン=元彼女であることは想像に難くない訳で、事実、監督はダニを自身に準えていることを明らかにしています。
「この映画はダニのもので他者(クリスチャンら他)のものではない」というインタビューでの発言通り、本作はアスター監督を主人公とした《喪失と再生》の物語と言えそうです。それは喪失によるトラウマを抱えるダニが、ハルガのメイクイーンに選ばれたことをきっかけに、クリスチャンに見切りをつけ立ち直ることを決意したように。もちろん、ダニ以外は生かしてもらえません。
映画作りを通して、内に渦巻くいろんな想いを外へと発散・昇華させているアスター監督。彼にとって映画作りは、まさに自己セラピーなんでしょうね。
私も辛い失恋の経験はあるので、ダニの気持ちは痛いほどに伝わってきました。ただ、喪失という点においては監督の実体験とは比べられないので、「すごい共感できた!」とはいかず、爽快感は得られず。エンディングなんて、口ポカーンでフィニッシュ!
私たち観客がそれぞれ歩んできた道によって、ダニとクリスチャンのどちらにより共感を覚えるか異なるのも、また興味深いところです。視点によっては、ホラーにもコメディにもなり得てしまう。
ただ個人的に一番興味があるのは、元ネタとなった監督の元カノの反応ですね。向こうからしたら、恐怖以外のなにものでもなかろうに・・・これは、もはや壮大な復讐劇と呼ぶべきかもしれません。監督、優しそうな顔して考えることは結構えげつないのかも・・・なんて。
◎役者はつらいよ
本作の役者たちはみな、初めて完成した映画を観終わった際、15分ほど沈黙してしまったとインタビュー(YouTubeリンク)で語っています。ジョッシュを演じたウィリアム・ジャクソン・ハーパーも、脇がびっしょり汗で濡れてしまったとか。
ダニを演じたフローレンス・ピューも、本作撮影において相当な心的ストレス(トラウマ)を体験したことを、自身のTwitterで明かしていました。
アリ・アスター監督、あなたは本当に恐ろしい人ですよ・・・
■ まとめ ■
以上、『ミッドサマー(原題:Midsommar)』のネタバレ感想でした。いかがでしたでしょうか?
アリ・アスター監督には、今後も引き続き変わった作風を期待していきたいと思います。
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