映画『ホテル・ムンバイ』高評価の裏には悲しい実話。後半ネタバレ感想

(C)2018 HOTEL MUMBAI PTY LTD, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, ADELAIDE FILM FESTIVAL AND SCREENWEST INC
まいど、Leecaです。
本日は、巷で高い評価を獲得している映画『ホテル・ムンバイ』の感想を綴っていきたいと思います。実際に起こったテロ事件をベースにした作品ですので、そこにも触れつつ、後半からネタバレありでお届けしますね。
映画『ホテル・ムンバイ』
■ ざっくり、あらすじ ■
原題:『HOTEL MUMBAI』
ジャンル:スリラー・ドラマ
脚本・監督:アンソニー・マラス
製作国:オーストラリア・アメリカ・インド合作映画
配給:GAGA
公開:2019年
上映時間:123分
R15+指定
2008年11月26日。
パキスタンと領土問題を巡って対立していたインドのムンバイで、同時多発テロが発生。ムンバイの街に美しくそびえ立つ五つ星ホテル「タージマハル・ホテル」もテロの標的となり、500人の宿泊客と従業員を相手に殺戮が決行されていく。
ホテルの従業員アルジュン(デーヴ・パテール)や料理長オベロイ(アヌパム・カー)を初め、現場にいたスタッフたちは決死の想いで宿泊客たちを先導し、地獄からの脱出を図る。
映画『ホテル・ムンバイ』
■ ネタバレなし感想 ■
国内外の映画批評サイトで、軒並み高評価を獲得していた本作。ずっと気になっていたところ、遅ればせながら鑑賞したのですが・・・
こんなに泣く・・・?
っていうくらい号泣しました。
「悲しい」という言葉が陳腐なまでに、ひたすら流れる涙、涙。銃撃シーンのあまりの臨場感に、自分がまるでテロ現場にいるような没入感を味わい、大げさではなく結末まで神経が張り詰め通しでした。
実話ベースゆえに、「みんな生き残って欲しい」という願いも粉々に砕かれる予定不調和の展開が待っており、それがより一層劇中のリアリティを加速させていきます。
ここで少し、本作のベースになった「ムンバイ同時多発テロ」がどんな事件だったのか整理をしてみましょう。
【ムンバイ同時多発テロ】
2008年11月26日夜から29日朝にかけての3日間、インド最大の都市ムンバイで、10件同時多発的に発生したテロ事件。カフェ、ホテル、駅、映画館、病院、造船所などの人が多い場所を占拠し、銃や手榴弾などで攻撃。インド人の負傷者・死者数が最も多かったが、その場に居合わせた外国人も例外なく標的となった(日本の方も含まれている)。死者は合わせて171人、負傷者は280人以上にも及んだ。実行犯らはパキスタンからやってきたイスラム過激派とされているが、首謀者も見つかっておらず真相は闇の中。このテロを機に、インドとパキスタンの緊張関係はさらに悪化することとなった。
本作は「タージマハル・ホテル」に焦点を合わせて製作されましたが、実際のテロでは「オベロイ・トライデント」という五つ星ホテルも攻撃を受けています。その他にも、オーストラリア人著者の小説『シャンタラム』にも頻繁に登場する人気レストラン「レオポルド・カフェ」や、2004年にユネスコ世界遺産に登録された「チャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅(通称:VT)」等が標的となりました。
映像を見ているだけでも身震いしたのに、実際にその場に居た方々はどれほどの恐怖を味わったのだろう。被害者・遺族の方々の気持ちを想うと、映画化自体に対して複雑な想いも正直あります。これは実話ベース作品全般に言えることですが。
ただセンシティブな題材だからこそ、生半可な覚悟で作り上げた映画ではない、という気迫が本作から感じられたのも事実です。真正面から作品とテロの事実を受け止めることで、世の中や自分についてもっと知る好機になると思います。まずは、知ることから・・・
映画『ホテル・ムンバイ』
■ ネタバレあり感想 ■
↓ここからネタバレありなのでご注意を↓
外国人観光客にも人気のあるレストラン・カフェで突如始まった銃撃。二人の外国人観光客の目の前で、一発目の銃弾が店のスタッフを容赦なく吹き飛ばした・・・!
その銃声と映像を前に、反射的に身をすくめる自分がいました。何が起こったのだろう?考える暇などない一瞬のうちに、男たちは逃げ惑う人々を次々と殺めていきます。一切の躊躇いなく。
こんな事が実際に起こったなんて。
実話を基にした作品であることは知っていたので、この冒頭シーンから既に胸が潰れる想いでした。そこへブワッと溢れて止まらない涙。
あぁ、私は世界のことをこれっぽちも分かっていなかったんだな・・・
◎貧富の格差と多様性
本作舞台となったタージマハル・ホテルは、ムンバイを象徴する五つ星高級ホテル。劇中では、アメリカ人建築家デヴィッド(アーミー・ハマー)とイラン人の妻ザーラ(ナザニン・ボニアディ)、そして彼らの子供の乳母サリー(ティルダ・コブハム・ハーヴェイ)、ロシアの退役軍人で実業家のワシリー(ジェイソン・アイザックス)と世界中の富豪らが宿泊客として登場します。
そして彼ら客をもてなすのが、給仕として懸命に働くアルジュン(デーヴ・パテル)や料理長のオベロイ(アヌパム・カー)。また先述のカフェの銃撃から逃れてきたカップルの女性はアジア系と、まさに登場人物は多種多様です。
左からザーラ、アルジュン、デヴィッド
これこそムンバイの街を象徴する「多様性」です。商業・娯楽の中心地として栄えるムンバイには、国内外からビジネスの機会や生活水準の向上を求める人々が集います。そのため人口は世界有数の1200万人以上と、インドの首都ニューデリーよりも人口密度は数倍高いムンバイ。必然的に、異なる宗教や文化を持つ人々で形成されていることが分かると思います。
しかし、光あれば影あり。
実はムンバイ人口の半数以上が、Dharavi(ダラヴィ)地区という世界最大のスラム街に居住しているとされています。そのスラムではなんと、外国人観光客向けのスラムツアーなんかもあるそうです。ツアーの様子をこちらで拝見しましたが、色々と考えさせられます・・・
このダラヴィ地区は、本作アルジュンを演じたデーヴ・パテルが主演を務めた映画『スラムドッグ・ミリオネア』の舞台でもあり、『スラムドッグ・ミリオネア』が描いた闇ビジネスも未だ横行しているとも言われています。しかしもちろん、アルジュンの様にムンバイで仕事をしながらもスラムに住み続ける人々も多くいるようです。
それはムンバイ都市部の不動産価格が富裕層しか住めないほどに高く、中間層向けの家がないから。このようにムンバイには、解決されていない貧富の格差問題があります。一方でダラヴィ地区の住人の中には、スラムへの強い愛着を示す人もいるのだから現実は複雑です。
あらゆる事に言えますが、これらの問題解決には相手の立場に立ったバランス感覚に富んだ視点が重要になってくると思います。そして、それは本作のメッセージの一つとして浮かび上がってきます。
◎加害者側の視点
特筆すべきは、テロリスト実行犯たちの描かれ方。豪華絢爛なタージマハル・ホテルの内観に圧倒される姿や、テロ決行中にホテルの食事に喰らいつく姿などは、とても印象に残っています。
中でも、足を負傷した実行犯の青年イムラン(アマンディープ・シン)が、お金が振り込まれているかどうか家族に電話をかけて確認するシーンは、複雑な心境で見つめるしかありませんでした。そして次々と躊躇なく人質を銃殺する中、イスラム教の祈りの言葉を唱えるザーラは殺せなかったイムラン。信仰深い彼が、初めてためらいを見せた瞬間です。
無論、イムランやその他実行犯たちの行為は許されないことです。それでも彼らの視点には、きっちりと現実が映し出されているので、無視できるものではありません。テロ実行犯たちは、先述の通りパキスタンからやってきたとされています。国民の識字率が6割程度のパキスタンでは、まともな教育も受けられず貧しい生活から抜け出せない人々がたくさんいます。そして、その憤りからテロリストになる若者もいるのが現実(※参照)。
また裕福なイギリス老婦人が、ペルシャ語を話すザーラやターバンを巻き髭を生やしたアルジュンを「危険人物」と一方的にみなす場面でも、私たちが住む世界の醜い現実を見せつけます。
◎問い続けた先には・・・
マラス監督はインタビューで次のように語っています。
ムンバイの襲撃事件は、体験した人々にとって、けたたましい警鐘となった。生存者の生活に、良い変化がもたらされた。また、互いを受け入れること、教育、様々な文化を理解することが、安全な世界を築いていくために不可欠だと証明した。この映画が、それらすべてをうまく伝えていることを願っている
「互いを受け入れること」。あまりにも使い古されて陳腐に聞こえることもありますが、言うは易く行うは難し・・・ですよね。そして他を受け入れるためには、まず「他を正しく知ること」が不可欠。
そういう意味でも観終わった後に色々な問いが生まれる本作は、「他を正しく知る」きっかけをくれる重要な役を担う作品なのではないでしょうか。
アンソニーは、希望と人間性のメッセージを物語に巧みに織り込んでいる
デヴィッドを演じたハマーは、同インタビューで上記の発言をしています。本作を観終えた私は、まさに同じことを考えていました。予てよりブログで「人間が一番怖い(醜い)」と言ってきましたが、その想いがより一層強まる一方で、「人はこんなにも勇敢になれるし、他を想える可能性も秘めているんだ」とハッとさせられました。
〇〇が自分だったら・・・?
何事においても、日頃から己の心に問うことの必要性を強く感じざるを得ません。敵は何でもない自分の弱い心、と肝に銘じて・・・
■ まとめ ■
以上、『ホテル・ムンバイ(2019)』のネタバレ感想でした。いかがでしたか?
平和な世の中が来るよう、まずは身の回りへの想いやりからコツコツと。
最後までお付き合い頂き、どうも有難うございました。
YOU MAY ALSO LIKE・・・
・これぞ喜劇!?映画『ジョーカー』ネタバレ感想:ラストまで観客を嘲る男。
・『Us/アス』後半ネタバレ感想:考察する程にホラーが増すスルメ映画
・予告から怖い『ヘレディタリー』あらすじ感想(後半ネタバレ)
・笑いも『ゲット・アウト』節?ジョーダン・ピールのコント5選!
・結末はニヤリ?実話がちらつく映画『スリー・ビルボード』ネタバレ感想