色んな意味で目玉が飛び出る『ネオン・デーモン』ネタバレ感想
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まいど、Leecaです。
今回は、2016年公開の映画『ネオン・デーモン(原題:The Neon Demon)』のご紹介です。
『ドライヴ(2011) 』でハリウッドデビューを果たしたデンマーク出身の監督、ニコラス・ウィンディング・レフンが手がけるサイコホラーです。
では早速、本作あらすじと感想、気になった点の考察をつづっていきたいと思います。※ネタバレありです
■ ざっくり、あらすじ ■
原題:『The Neon Demon』
ジャンル:サイコホラー
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
製作国:フランス、デンマーク、アメリカ
公開:仏丁米=2016年6月、日=2017年1月13日
上映時間:117分
モデルを目指し、たった一人でジョージアの田舎からハリウッドへ引っ越してきた、16歳のジェシー(エル・ファニング)。
彼女にとって初めてのモデル撮影を担当するのは、カメラマンのディーン(カール・グルスマン)と、メイクアップアーティストのルビー(ジェナ・マローン)。
二人とも、ジェシーの美しさには一目を置いている。
撮影後、ルビーからパーティーに誘われたジェシーは、そこでジジ(ベラ・ヒースコート)とサラ(アビー・リー)という二人の先輩モデルを紹介される。現役モデルの二人でさえも、ジェシーの若さと美貌には危機感を覚えるほどであった。
かくして、誰をも惹き付ける天然の美しさを備えているジェシーが、モデルとしての成功を掴み始めるのにそう時間はかからなかった。
一方でそれを快く思わないジジやサラ。
やがて、彼女たちの抑えられなくなったジェシーへの激しい嫉妬心によって、事態は血生臭さを増していく。
■ ネタバレ感想 ■
血を流してソファーに横たわる美少女、
そして彼女に鋭くも熱い視線をおくる謎の男。
「・・・・・? 」
いきなり、疑問符が浮かんでくる形で本作は幕を開けます。
男の人、ブルーノ・マーズ?
いや、イレブン?(by 『ストレンジャー・シングス』)
(言う程似てない)
で は な く て 、
「この子、死んでる? 」「眼光鋭い男は殺人鬼? 」といった類の疑問が浮かんできます。きっと、これは人殺しの話なんだ。
と思ったら、美少女は死体メイクを施されたモデル、怪しい男はカメラマンという事が分かり安心するのですが。
冒頭から制作側の仕掛けたトラップ(?)にハマったことで、どうストーリーが展開していくのか、より興味を持って観進めることができました。←完全に誘導されてる
まず特徴的だったのが、色彩コントラストの強い映像です。
これはレフン監督がもつ色覚障害(中間色が見えづらい)の賜物とも呼べるのでしょうが、初っ端の時点でもう、好き嫌いがはっきり分かれそうな映画という印象を受けました。
ファッショナブルにしようと力みすぎて、逆にチープでダサい・・・って気持ちもなくはなかったのですが(『Nerve/ナーヴ 』を想起)、極彩色過ぎない無機質な色が、本作の世界観にマッチしていて私は結構好きでした。色彩はハッキリしてるけど、ごちゃごちゃしてなくてシンプルで美しかった。
ただ最初のパーティーでのライティングは、視力を低下させる程の強烈さがありましたね。結局、ステージで何が行われているのか全く把握できず。気になって後で調べたんですけど、「・・・これ要る!?」という代物で笑えました(ヒント:kinbaku)。セクシャルな要素としては必要だったのかしら。
監督のみぞ知る
監督のみぞ知るといえば、劇中では理解しがたい気色悪い描写が目立ちます。
レフン監督って変態ですよね、絶対。
鬼才・天才には変態が多いとかよく言うしな・・・・。そんなボンヤリとした想いを確信に変えたのが、『Drive 』で主演を務めたライアン・ゴズリングまじえての以下のインタビューです。
インタビュアーがゴズリングだからこそ、レフン監督の素を引き出せている貴重なインタビューだなと思います。どこまで本気なのか分からない話し振りが、また独特。ゴズリングの “oh,ok…” という返答が絶妙で笑えますが、監督の変態で個性的な部分がダダ漏れ、という話。
▶ インタビューから垣間みえるレフン監督の素顔
3:15辺りで監督は、「全ての男性は16歳の少女の側面を持ち合わせている 」という発言をしています。これにはゴズリングや会場も、「えっ・・・(笑)」という何ともいえない雰囲気に。
さらにエルによると、LAにある監督の家を訪ねたとき、家中がプリンセスの服やバービー人形やらで溢れていて戸惑ったそうです。しかもその時、『Let it go (by アナと雪の女王)』がバックで流れていたとか。監督、中身が超乙女なんですね。
7:53辺りでは「私はいつも16歳の少女になることを夢見ていたんだ。そしてエルを見たとき・・・わお!って感じだった 」と発言しています。この後、当然変な間が流れる〜。
そしてついに、11:05辺りからルビーによる屍姦シーンについて監督が語りだすのですが。「ルビーが死体にキスをしたとき、突如直感が閃いた」らしく、ルビー役のジェナ・マローンに「(死体役の)彼女の口に唾を吐き出せる?彼女にタッチできる?」と要求はエスカレートしていき、あの強烈なシーンが出来上がったようです。
キスだけでもギョッとしたのに。それを遥かに超えていく監督の思考回路には、アブノーマルさを感じずにはいられないのでした。自身の事を、「天才」「未来からやって来た」という彼ですが、そこに「変態」も付け加えてくれれば完璧ですね。
フェティシズム と ナルシシズム
これらに集約される映画だな〜と感じました。
▶ キャストについて
批評の中でよく耳にした声が、「エル・ファニングはそもそも美女じゃない 」という声。美の基準は人それぞれだし、確かにエルは可愛らしい部類に入るかもしれませんね。
でも姉のダコタ・ファニングにしろ、彼女にしろ、例えようの無い独特のオーラを纏っていて、妙に目が話せなくなる魅力を感じます。どことなく異星人ぽさを備えていて、そこがジェシーとも重なって良かったです。
私は、姉のダコタ派ですけどね(☞ 姉ダコタの新TVシリーズ『The Alienist 』についても綴っています)。
しかーし、主人公を演じたエルを抑えて、一番印象に残った方がいます。
ルビーを演じた、ジェナ・マローンです。
1984年生まれのアメリカの女優さんです。
際どいシーンも見事演じきる演技力&女優魂にも感心ですが、なによりも彼女の持っている妖艶さは特筆モノ!序盤から彼女がジェシーを狙っていることが読めたので、一々美しいルビーを演じる彼女をみて、こちらは「逃げろ〜!」と心の中でハラハラしてしまいました。
それからサラを演じたアビー・リー。1987年オーストラリア出身のスーパーモデルですが、『マッドマックス 怒りのデス・ロード 』を皮切りに女優業もスタート。同じ人間とは思えない(思いたくない)スタイルの良さもそうですが、劇中で彼女がみせる死んだ魚のような目に何より釘付けになりました。
アビー・リーは只者じゃないな〜と感じ、他のインタビューも拝見しましたが、受け答えの堂々たるや!淡々としていて、どこかサラに重なる瞬間もあり、凄みを感じました。やはり熾烈なモデル業界での競争をくぐり抜けてきただけありますね。
サラといえば、ラストの目玉をぺろりのシーンでしょう。あれで食欲失せた・・・って方も多いでしょうね。かくいう私は、当のシーンでは「目玉のおやじキャンディー」を想い出していました(今日も平和です)。
総評としては、まぁまぁ(ここまで言っておきながら)。内容も目新しさは感じず、そこまで深いメッセージが伝わってこなかったのが残念でした。
ジェナ・マローン演じるルビーのキャラに加え、後半のホラー要素、それからキアヌ・リーブスの登場は好きでした。私生活では実に無欲なキアヌが、本作では強欲ロリ男を演じていたのがなんとも・・・そんなキアヌが好きです。
無闇にオススメできる作品ではないのは確かですが、考察が色々と捗る意味では、観賞後にじわじわ楽しさが増してゆく感じはありました。ということで、次は気になった点を考察してみたいと思います。
■ 気になった点 ■
①色と鏡が象徴するもの
映画冒頭のフォトシューティングの場面の背景&ジェシーのドレス、ジェシーがトリに大抜擢されてランウェイを歩くときの背景など、本作ではとにかく青と赤の対比が目立ちます。あ、あの気持ち悪いショーメイクも青&赤の組み合わせでしたね。
個人的には「赤が悪魔の側面、青がピュアな天使の側面」という見解でした。実のところは監督がこちらのインタビューの中で語っていたのですが、「青はギリシャ神話のナルキッソスの象徴、赤は危険の象徴」だそうです。ナルキッソスとは、ナルシストの語源となった美少年の名前です。
トリを務めたショー以来、内外ともに別人になったジェシー。これもショーの始まりは背景が青色だったのに対し、途中から真っ赤に染まっていることから説明がつきますね。ちなみにルビーの背景も赤色でした。
それから鏡について。登場人物たちが鏡を見つめるシーンが頻出しますが、これも水面に写った自分に恋をし死んだナルキッソスを想起させるモチーフになっていると考えました。
②月と三角形が象徴するもの
まず気になったのが月の存在。ジェシーとディーンが初デートで車を停めて会話をする場面でも、ジェシーは月について語っています。空には綺麗な「満月」が。また、ジェシーの血で入浴を終えたディーンが、仰向けで大量の血を流す場面でも大きな窓から「満月」が顔をのぞかせます。
また劇中では「三角形」のモチーフを至るところで発見できます。①同様、ランウェイでの場面も(逆)三角形のシンボルが強調されていますし、他にはパーティーの時にモデルのジジが身につけていたネックレスも三角形でした。
私が以上から想起したのは、もろオカルトの世界。色々考えていくうちに、ウィッチクラフト(魔女術)/ウィッカなんかが近いかも・・・と思いました。どんな儀式を行うにしても「月」は欠かせない存在ということと、「三角形」は魔法の図形として用いられることも多いからです(☞ 魔法図形:参照サイト)。
ジェシーとディーンとの初デートは満月、そして横たわったルビーが大量に出血した日も満月だったので、月のサイクルも1周していることが分かります。魔術で用いられる月の満ち欠けのサイクルのもと、ジェシーの死をもって儀式も完了とすれば辻褄が合うかな〜なんて・・・考えすぎ?
③魔女と動物
②の理論でいくと、魔女は・・・言わずもがな、ルビー・サラ・ジジの3人。サラなんて、ジェシーの傷口から滴る血を舐めてた時点で怪しかったですよね。
三角形のことは上でも触れましたが、魔法図形としての意味以外にも、魔女3人のことを表しているのだと思います。一つの大きな三角形の中には4つの小さな三角形がみえるので、魔女3人にジェシーが加わるという構図。
途中、ヤマネコがジェシーの部屋に登場する場面がありますが、あれは大魔女ルビーの使いでしょうか(動物を使う魔女たちの常套手段)。ルビーの家にはヤマネコやオオカミの剥製がどーんと飾ってありましたし。
それにしてもルビーはこの道が長いのか、余裕さえ垣間見えましたね。
サラとジジがシャワーを浴びる様子を眺めながら、優雅に血のバスタイム。満月の出血を通して新たな自分に生まれ変わった翌朝には、何事もなかったかのようにプールを掃除 ⇒ 骨を埋める。て、手際良すぎです、ルビー姐さん。
一体、何人の乙女を殺してきたのでしょう。こなれ感が半端じゃないし、身体に彫られた奇妙なオカルト的なタトゥーが本気度を窺わせます。
サラも切腹するジジに一応驚いた様子をみせますが、もう慣れてるのでしょうか。目玉をぺろりしてそのまま撮影に戻っていってしまいました。涙を一粒だけ流した彼女でしたが、あれは魔術を行使した己の行く末に対するものだったのかな〜なんて。
きっとルビーとサラは、同じような儀式を繰り返してきたのでしょうね。はて、ジジもそうだったのかは、ちょっと分かりません。
全身血まみれのバスタブで静かにサラとジジを見つめる彼女には、吸血鬼カーミラのモデル “エリザベート・バートリ”を彷彿とさせるおぞましさが漂ってました。処女を求めるってところも、二人は共通してますよね・・・こわっ。
■ おわりに ■
以上、『ネオン・デーモン』についてお届けしました。
本当「目玉が飛び出る」映画でしたね。
長文でしたが最後までお付き合いいただき、有難うございます。
それででは、また。
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