結末はニヤリ?実話がちらつく映画『スリー・ビルボード』ネタバレ感想
©IMDb
まいど、Leecaです。
今回は、話題沸騰中の映画『スリー・ビルボード 』についてのお話です。
先日の第90回アカデミー賞にて、主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)と助演男優賞(サム・ロックウェル)のダブル受賞を果たした本作。
早速、簡単なあらすじと筆者の感想を綴っていきたいと思います。感想はネタバレになりますので、どうぞお気をつけください。
■ ざっくり、あらすじ ■
原題:『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』
ジャンル:ドラマ
脚本監督:マーティン・マクドナー
製作国:アメリカ、イギリス
公開:米=2017年11月、日=2018年2月1日
上映時間:115分
ミズーリ州の田舎町エビングで、10代の女性アンジェラ・ヘイズが惨殺される事件が起こった。
被害者アンジェラの母親ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、娘を失った深い悲しみから立ち直れないでいる。
そしてその悲しみは、事件から7ヶ月経った現在も何一つ犯人の手掛かりを得られていない“警察に対する怒り”へと変わっていった。
ある日、ミルドレッドは広告会社のレッド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)から、町外れにある“3枚の巨大広告看板=スリー・ビルボード”を借り受ける。
警察への抗議文を掲載するために。
広告は瞬く間にエビングの町に知れ渡り、やがて警察の目にも止まることとなる。
次第に、広告の存在を快く思わぬエビングの住人や警察と、犯人探しに燃えるミルドレッドとの間に軋轢が生まれ、ミルドレッドは孤立していく。
そして、事態は誰もが予測しえない方向へと転がっていく・・・。
■ ネタバレ感想 ■
昨年アメリカで公開されてからずーっと気になっていた本作ですが、
なんせタイトル(原題)が長い。
タイトルが想い出せない・・・という単純な理由から後回しにしていましたが、ようやく鑑賞しました。
いつもの如く、前知識もゼロで臨みましたよ。
いつぞやネットで、フランシス・マクドーマンド演じるミルドレッドの姿をちらっと見かけ、そのときから「なんでバンダナ巻いてるんだろう?癖強そうな役だな〜 」と謎に思っていたのですが・・・
『癖強め』どころではなかったですね。
アメリカでもそうそうお目にかかれないような、濃いキャラをお持ちの主人公ミルドレッド。かなり難しい役だろうに、マクドーマンドが演じると、何一つ違和感がないから不思議。「あぁ、こういうアメリカ人いそう(失礼)」と、やけにミルドレッドという人物像に現実味が帯びてくるんですよね。
彼女が『ファーゴ 』で魅せた演技も素晴らしかったですが、本作では全く違うキャラクターを見事演じきっていて、アカデミー賞主演女優賞を受賞したことにも、心から納得です。
言葉を発さずとも表情だけで伝える演技、いや、佇まいが語ってみせる演技は圧巻でした。警察署にてウィロビー署長と会話している彼女の後頭部ですら、目が離せなくなるほどに。って、これは私だけかな・・・
癖強めといえば、警官のジェイソンも外せません。
エビングの町でも差別主義者として悪名高い、無能で暴力的な警官です。同居の母親もまたキャラ濃いんですが。
慕っていたウィロビー署長が自殺したあと、ジェイソンが怒りに狂う姿はガチで怖かったです。広告会社のレッドが窓から投げられ、従業員の女性が顔面パンチを喰らうあのシーンは、誰もが絶句することでしょう。
サム・ロックウェルの演技がまた憎い!
けど、キャラは憎めない。
ミルドレッドもそう。本当どうしようもない曲者たちだってのに。
「最初から彼らに感情移入できず、共感できなかった 」という方もいらっしゃると思います。人は自分にないものをみることは出来ないという点から、個人的には共感できない方を羨ましくさえ思ってしまいます。
でも私は、ミルドレッドやジェイソンの果てしない『人間臭さ』に共感を覚えてしまった一人。彼らのようなぶっとんだ事をしたことはなくとも、哀しみ・憎しみ・怒りで狂いそうになったことは、正直言ってあります。
だから、なんか気持ちわかるわ〜って。
誰かを身体的・精神的に傷つけたりする暴力は絶対支持できないけど、心があちこちに揺れ葛藤する彼らの姿に、不完璧な自分そのものを見たのでした。
でも、本作では単なる『人間の弱さ・醜さ』にフォーカスして終わりとせず、『人間の強さ・純粋さ』へと着地点を持ってきていて、ところどころで心が温まる瞬間があったのが最高でした。やっぱり憎しみに憎しみをもって返していては、誰も幸せにならないんだよな〜って。
結局、廻って自分のところ返ってくるし(好例:ジェイソン)。
てことで、私は本作から「赦し愛せよ 」という、なんとも聖書を想起させるような偉大なメッセージを受け取ったのでした。ていうか、キリスト教絡みなことは明白。
ウィロビー署長もすごく周りを想ういい人として描かれていますが、馬小屋で自ら命絶つっていうのは、キリスト教的観点から言うと『大罪』なのですよね。馬小屋もイエスが生まれた場所ですし・・・てことで、聖人君主にみえた彼でさえ、罪を背負っているのでした。
◎赦しの波及効果
言っても人徳者ウィロビー署長は、はじめから愛をもってジェイソンやミルドレッドに接していました。ビルボード上で「どうして、ウィロビー署長?」とあからさまに批判されても、すべてを包みこみ赦した彼。むしろ自分の至らなさを謝っていましたね。
彼がこの世から去っても、彼の残した『愛と赦し』のメッセージは登場人物たちの心にゆっくりと、しかし確実に波及していきました。
中盤、このままディクソンの悪役確定か?と思ったものの、愛の伝道師ウィロビー署長からの手紙を読んですっかり改心した彼。いや、本来の彼の姿を取り戻した、というほうが正しいでしょう。
皮肉にも良心に目覚めたときには炎の中、という天罰が下されたような展開に切なくなりつつも、どこか清々しさも感じてしまいました。
そして、最高にかっこいい赦しのシーンがやってきます。
広告会社のレッドの赦しのシーンです。自分を痛めつけたディクソンと同じ病室になるっていうのが、また都合よすぎ&シュールでしたが、一瞬怒りに支配されそうになりながら、慈悲の気持ちでオレンジジュースを差し出したレッド。私はこの場面で感動して泣きました。
しかも、丁寧にストローをディクソン側に向けてあげるっていうね。うぅ、優しい。自分が彼だったら果たして同じことをできるだろうか?そんなことを考えさせられる、心震えるシーンでした。
【『ゲット・アウト』で兄を好演した、あの彼ですよ〜♥】
そして、ミルドレッド。
くすりとも笑わなかった彼女の冷えきった心が、ディクソン含めあらゆる人たちのお陰で解けていく。愛情がすべてを優しく溶かしていく様は、アナ雪さながら。
そして迎えた、映画ラストのシーン。
賛否両論のようですが、私はめちゃくちゃ好きな終わり方でしたね。
ミルドレッドが警察署に放火をしたのは自分だとディクソンに話すと、
Well, who the Hell else would it have been?
ディクソンが、「他に誰がいるんだよ?」と答えます。そう、勘づいていたけど咎めなかった。つまり彼もまたミルドレッドを赦しているのですよね。愛と赦しの波はついに、ディクソンまで押し寄せてきたことに。
残すは・・・?
そう、ミルドレッド。
I guess we can decide along the way
(道々考えましょ)
私はこの最後の台詞から、彼女は最終的に男を殺さないだろうと読みました。彼女が憎しみの人生から決別する、という希望も込めて。
いずれにせよ、希望を持てる形での幕の閉じ方で、個人的には非常に後味の良い映画でした。最後は思わずニヤリとしてしまったし。
本作は暴力が目立つ一方、上述のような人の温かさにくわえて所々にユーモアも散りばめられているので、重すぎず観ていて疲れることはなかったかなと。
ストーリーが多くの矛盾を抱えていて、ご都合主義で現実的ではないのも確かです。そうはいっても、エンターテイメント性に溢れていて、人によってはハマれば相当ハマる作品ではないでしょうか。
秀逸な台詞がかなり魅力的なので、そこにも注目してほしいと思います。あと主人公のみならず、小人症の男性ジェームズや元夫の彼女ペネロープなど、たまに登場する人物たちの魅力も光っていたのが最高でした。
■ 垣間見えるアメリカ社会の裏側 ■
本作の原題は『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri 』ですが、Ebbing/エビングという町は架空らしく、ロケ地もミズーリ州ではなく、ノースカロライナ州シルヴァだそう。
しかし、本作の舞台がミズーリ州でタイトルにも記載されているのは、意味があるはずですよね。ミズーリ州といえば白人が多い州で、選挙激戦区としても知られています。ミズーリ州から指名をされた大統領は当選する確立が高い、なんてことも言われています。
つまり、ミズーリ州の動向がアメリカ全体の動向と一致することが多い。ちょっとズレますが、日本でいうと新製品のテスト販売が行われる、静岡県や広島県みたいなものでしょうか(ちがうか)。
その他にも、実際にミズーリ州で起こった事件(下記参照)にも繋がりますし、ミズーリ州で起こったことではないにしろ、アメリカ全体の縮図としてミズーリ州を舞台に描かれているのでしょう。
①神父が暗にビルボードの批判をした後に、ミルドレッドが反論した内容
神父として教会に属した時点で、彼も児童虐待の責任を問われることになる、と責任の所在についてL.A.のギャング(ブラッズとクリップス)を例に挙げながら語っています。これは、カトリック教会の神父による児童虐待という全米を震撼させた隠蔽事件を暗示させ、アメリカの深い闇に触れている場面といえるでしょう。
②人種差別に関する風刺
ミルドレッドが「So how’s it all going in the ni—er-torturing business, Dixon?」と、差別主義者で悪名高いディクソンを皮肉る場面があります(本来n—erは、黒人への差別用語なので禁句)。この発言からは、2014年に舞台のミズーリ州で実際に起こった白人警官による黒人少年の射殺事件が想起されます。殺害されたマイケル・ブラウンさんは、無抵抗で両手をあげていたにも関わらず、白人警官はそんな彼に何度も銃撃したとのことで、全米で抗議運動が起こりました。
③突如として犯人候補として浮上した男
結局、その男のDNAは一致せず前科もありませんでした。決定的なのは、彼がミズーリ州にいなかったこと。しかし、諦めきれないディクソンが「彼はどこにいたのですか?」と後任署長アバークロンビーに訊くと、「指揮官がいて、9ヶ月前に帰国し、滞在国が国家機密ということは・・・?」とヒントを与えてくれます。
このことから、彼が米兵で海外に派遣されていたことが分かります。この事と、ミルドレッドの娘アンジェラが強姦されたあげく焼かれた事が、米兵がイラク人の少女を強姦した後に焼いたという、2006年に実際に起こった事件を浮かび上がらせます。
■ おわりに ■
以上、『スリー・ビルボード』についてお届けしました。
最後はアメリカ社会の闇で締めてしまいましたが、むしろそこにフォーカスしている印象を受けない本作。
非常によくできた、素晴らしい映画だと思います。
それでは、最後まで読んで下さってありがとうございました。
You may also like・・・
・ラストは涙!手紙が気になる『A Ghost Story』ネタバレ感想
・日本公開中止も納得なホラー映画『mother!』ネタバレ感想
・映画『RAW』人食いにめざめた少女の結末とは/ネタバレ感想
・映画『IT/イット』は実話だった?【事実は小説より奇なり】
・伝説ラッパー2パックの映画『オール・アイズ・オン・ミー』感想
スリービルボードを飛行機で見て、実話なのかなーと気になっていました。
世相・背景がわかりやすく記載されていてすっきりしました!
masaさん、
はじめまして。
コメントどうも有難うございます!
やはり、実話かどうかって気になるところですよね。内容が内容だけに・・・
少しでもお役に立てて嬉しいです♪
気ままな更新ではありますが、良ければまた覗きにいらしてください^^
すごく面白い映画だなあと思って見ましたが、
Leecaさんの背景の話を読んで、さらにじわっと
楽しめました!ありがとうございます!
また覗きま!
大さん、
はじめまして&コメントありがとうございます。
返信が遅くなりまして申し訳ありません!
背景を知るとより楽しめる素敵な作品ですよね♪私の記事が少しでも参考になったようで、とても嬉しいです。不定期更新ですがいつでも遊びにいらしてくださいね♪