アメリカで観る『ストレイト・アウタ・コンプトン』感想(ネタバレ)
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こんにちは、Leecaです。
今日は、伝説のヒップホップグループ “N.W.A”を描いた映画『ストレイト・アウタ・コンプトン(原題:Straight Outta Compton)』についてのお話です。
気になるタイトルの意味は、『コンプトン(地名)からそのままやって来たぜ!』って感じでしょうか。straight outta (=out of)はスラングなので、耳慣れない表現かもしれません。その土地へのプライドが感じられる表現です。
本作は、2015年にアメリカで公開されるやいなや、興行収入1位を獲得。
その後3週にも渡って1位の座をキープし、音楽の伝記映画としては歴代最高のヒット作となりました。
昨晩久々にDVDで鑑賞したので、感想でも書いてみたいと思います。ネタバレありです。
■ ざっくり、あらすじ ■
・監督:F・ゲイリー・グレイ
・ジャンル:音楽伝記
・製作国:アメリカ
・公開:2015年8月14日(日本:同年12月)
・上映時間:147分
舞台は1986年、アメリカ・カリフォルニア州にある全米屈指の危険な都市、コンプトン。そこに暮らす、ある若者たちがいた。
ドラッグディーラーとして稼ぎを得ていたイージー・E(ジェイソン・ミッチェル)、妻子持ちでありながら仕事は薄給のDJのドクター・ドレー(コーリー・ホーキンス)、そして真面目な学生でありながら攻撃的なリリックを書き溜めるアイス・キューブ(オーシェア・ジャクソン・Jr)。
ギャング抗争・犯罪・警察の暴力といったアフリカン・アメリカンが遭遇する日常。それをキューブが偽りなくラップで表現する様に、ドレーは魅せられ音楽活動への可能性を見いだす。そしてドレーは、一番お金を持っていたイージーにレコード会社の出資を依頼。イージーもこれを引き受け、Ruthless Recordsを設立。
イージー、ドレー、キューブの3人に、MC・レン(オルディス・ホッジ)とDJ・イェラ(ニール・ブラウン・Jr)を迎えた5人で『N.W.A.(Niggaz Wit Attitudes)』を結成。
やがて、ギャングスタ・ラップとして社会的現象を呼ぶまでに成長したN.W.A。その成功の過程で、FBIからの監視、世間からの批判、メンバー内の軋轢など、様々な壁が彼らを阻む。
ヒップホップ界に伝説を残した男たちの、壮絶な人生を描いたストーリー。
■ ネタバレ感想 ■
上映時間が147分ということで、気合い十分で鑑賞に臨みました。なにしろ私自身、そこまでヒップホップに明るいというわけでもなく・・・1回目は予備知識ゼロ。
アメリカ人の主人が、まさに本作の舞台となる90年代のヒップホップを聴いて育ったそうで。薦められるがままに一緒に聴いていたものの、“ヒップホップってちょっと取っ付きにくい”というイメージを払拭できずにいたんですね。聴き取れないほど速い英語のリリックってだけでも構えてしまうのに、内輪でしか通じないような表現・スラングだらけで。
というわけで、N.W.Aの主要メンバーの名前は知っていたけど、どういう経緯でグループ結成に至ったのか、成功してからのゴタゴタ、どんな想いが彼らの音楽に込められていたのか、といったことは知りませんでした。彼らの故郷・ルーツである、コンプトンについても同様。
そんなヒップホップに疎い私でも
おもしろいっ!
と釘付けになったのが本作です。
まず、音楽がいい。
って音楽伝記なので当たり前かもしれませんが、イージー・Eやアイス・キューブを演じた俳優がちゃんとラップしてます。歌ってる“風”に演出することも可能だったはずなのに、真っ向勝負がよかったです。ラップも上手だったと思います(素人目)。
他にも劇中で流れる音楽の選曲がめちゃくちゃ好みでした。こちらの記事でご紹介したファンクバンドの曲も流れてましたが、やっぱりイイ音楽あってのイイ映画という確信が深まりましたね。
次にキャスト。
アイス・キューブ役に、彼の実の息子オーシェア・ジャクソン・Jrを充てたのも◎。ただ見た目が似ているだけでもダメなので、出演にあたってしっかり演技指導を受けた上、父親のアイス・キューブの後をついて回って“当時の振る舞い方”を直接体得したのだそう。
あとはイージー・Eを演じたジェイソン・ミッチェルも、すごく特徴を掴んでて本人にそっくり。ミッチェルは役を演じるにあたって撮影の数週間前から、イージー・Eの独特な歩き方などを研究して成りきって生活をしていたそうです。特徴的なジェルで固めたカーリーヘアなどを再現するためには、3時間もかかったとか。でもその甲斐あって、ドクター・ドレーからもお墨付きを頂いたそうですよ。
ドクター・ドレーに関しては、あれ?ちょっと見た目違うかなと思ったものの、コーリー・ホーキンスの演技は素敵でしたね。悪事に手を染めるでもなく、ただただ音楽に没頭するドレーの姿が彼の演技から見てとれました。とはいえ、彼のDVにも全く触れていないのも美化されすぎかな?というのは否めませんが。
製作にはドクター・ドレー、アイス・キューブ、そしてイージー・Eの妻トミカ・ウッズ=ライトらが名を連ねているので、そうなるもの必然かもしれません。でも成功を収めた裏で、女性たちとパーティーに明け暮れる様子は漏れなく描かれております。これは良いんですね・・・お決まりってことで。
あとはシュグ・ナイトを演じたR・マルコス・テイラーも似ててびっくり!恰幅の良さでは本人に劣りますが、劇中で悪者にしっかりと仕立て上げられていて、それをしっかり演じきっていたのもよかったです。シュグ・ナイト本人はもっとおそろしい男で、本作撮影クルーを車でひき殺す事件をおこし、現在は刑務所にいます。伝説のラッパー、2パック殺人にも関与していたと言われる本気(マジ)で怖い男です。
あと興味を持ったのが、アフリカン・アメリカン(黒人)として生きる人生について。
人種差別騒動も後を絶たない昨今なので、とくに。
※参照:浜ちゃん黒塗り/H&M騒動について考えてみた
コンプトンという貧困&危険地域でアフリカン・アメリカンとして生まれ育ち、日々直面する厳しい現実。ギャング抗争で愛する人を奪われ、90年代になっても横行する人種差別によって、無実なのに警察に虐げられる日々。
こういった彼らの日常が劇中で映し出されるたび、そういった事とは無縁な人生を歩んできた自分でも、彼らの心の動きが手にとるように分かりました(少なくとも分かった気はした)。それは単なる作り話ではなく、実話でリアリティそのものだから。
たとえば、N.W.Aがレコーディングの休憩中に警察に言いがかりをつけられるあのシーン。地面に伏せることを強要されるメンバー。警察に顔を地面に押し付けられるアイス・キューブの顔がアップで映った瞬間、わたしも怒りで震えたほど。
もちろんこれも実話。ニュースでも報道されるとおり、警官が無実のアフリカン・アメリカンの方を殺める事件もこれまで多発しているし、未だになくなっていない問題の一つでしょう。考えさせられるシーンです。
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そしてこれが『Fuck the Police 』が生み出された経緯だったと分かります。『Fuck the Police 』は警察への挑発という意味もあったと思いますが、彼らが直面していた理不尽さを世の中に知らしめ問いかける、という重大な意味をもっていたんですよね。より良い社会のために。
そういう意味において、政府(FBI)の厳しい監視が向けられる中でも「現実を世に知らしめ現状を変える 」という信念を貫いた彼らがかっこよくてシビれました。私も一緒に拳つきあげてましたよ、心の中で。身体的な暴力に走る道を選ばず、“表現の自由”のもと言葉で闘う道を選んだことが、彼らのスマートさを物語っていると思います。
真っ当“そう”なことを主張している権力者たちこそ本質みろよ、とつい毒付いてしまう瞬間でした。
「これがリアルってどんだけだよ 」というのが、平和な日本に住む日本人の一般的な声かもしれません。現にそういうレビューを多々目にしました。でも、映画よりも現実は怖いわってのがアメリカに住み始めて感じたことです。かなり危険な街にも足を運んだことがあるんですが(これについても書こうかな)、もう、平和ボケな私でも肌感覚でヤヴァイ・・・と感じたほどです。
そういう意味でも、この映画はヒップホップとは何たるかを教えてくれると共に、(アメリカ)社会・人間の心に潜む闇の存在を偽りなくストレートに見せてくれます。ある意味では、自分の肥やしにもなる教材みたいな作品かもしれません。色々と勉強になるんですよね。
日本では大衆向けとはいえない本作ですが、アメリカで大ヒットしたのも頷けます。エンターテイメント性に富んでいるのもそうなんですが、私の義母もヒップホップとか全く聴きませんが、イージー・EをはじめとするN.W.Aメンバーの存在は知っており、映画も観に行ってたくらいです。アメリカでは自分の親世代までもが知っているということこそ、彼らがアメリカ社会に与えた影響の大きさを物語っているのではないでしょうか。
それもそのはず、彼らが台頭するまでのヒップホップは、楽しくてポジティブなことによりフォーカスする向きがありました。きっと社会からの抑圧の恐れもあったのでしょう。
でも、N.W.Aは「真実」をありのままに言葉にし、ラップビートに乗せていきました。今でこそ社会問題やネガティヴィティにフォーカスすることが普通になっていますが、当時の社会の流れでは革命的。
そう、彼らはまさに革命家だった。
この映画をきっかけに、前述のヒップホップの“取っ付きにくさ”というものが払拭されたような気がします。というか、自分が知ろうとしてなかったんだな〜ってのがよく分かりました。そういう意味では、上で批判していた政府や警察たちと一緒じゃないかって。
それと同時に、コンプトンとかそういった貧困・差別・犯罪が蔓延る環境からのリアルな声だからこそ、心にも響き変化があったのだなと思います。ワルいことを強調したいんじゃなくて、そうならざるを得ないってところが分かったから。ヒップホップでも表面的なワルさが目立つものもあると思うんですけど、偏った視点でみるのはやめようと思いました。
ヒップホップを知らなくても、少なくとも音楽が好き、あるいは社会のことに興味があるって方だったら楽しめる映画ではないでしょうか。私自身も、1回目の鑑賞ではよく分かっていない部分もあったものの、それでも色々収穫はありました。そこからちょっと興味を持って、コンプトンについて調べてみたり。あとは日本のヒップホップ少年たちのドキュメンタリーなんかも、興味深く観させてもらいました。
ちなみに、こちらはコンプトンでヒップホップが受け継がれていることを示す、非常に興味深い動画です。よかったら観てみて下さい。
今回(2回目)の鑑賞は、ちょっとだけN.W.Aやメンバー、周辺情報もわかってより楽しめたのは事実ですけどね。まぁ、どちらにしろ十分、見応えのある作品だと思います。人の人生を描いた作品ですしね。
ということで、オススメの映画です。
まだ未見の方はぜひチェックしてみてください。
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