ジェームズ・フランコの愛する史上最低映画『ザ・ルーム (2003)』を語る
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新年、明けましておめでとうございます。
本年もご愛読のほど宜しくお願いいたします。
さて新年1発目は、2003年アメリカ公開の恋愛映画『ザ・ルーム(原題:The Room)』についてお話したいと思います。今世紀、いや史上最低ともいわれている本作ですが、カルト映画として不動の地位を得ているレジェンド作品です。
今回そんなユニークな映画を取り上げようと思ったのは、①個人的に愛する作品であるから、②再びこの作品が世間の注目を浴びているからです。
①については後述するとして、
②世間で最注目されている理由ですが、その裏にはジェームズ・フランコが監督・主演を務めた映画『ザ・ディザスター・アーティスト(2017)』の存在があります。
この映画は、『ザ・ルーム 』の製作過程を描いたコメディで、かなりの高評価を得て大ヒットしています。
つまりこの作品の成功のおかげで、14年の時を経て再注目されているのが今回お話する映画『ザ・ルーム 』というわけです。現に、異例も異例、2018年1月10日に全米600館で拡大公開されることも決まっています。
少し前置きが長くなりましたが、
史上最低といわれながらも、多くの人々から愛されている映画『ザ・ルーム 』の魅力に迫っていきましょう(アツく語っています)。
< もくじ >
・簡単なあらすじ
・酷評されたポイント
・それでも尚、愛される理由
・ハズせない!見所
・おわりに
■ 簡単なあらすじ ■
〜作品情報〜
公開:2003年
製作国:アメリカ
監督/脚本:トミー・ワイゾー(ウィソー)
出演:トミー・ワイゾー
グレッグ・セステロ
ジュリエット・ダニエル
舞台はアメリカ、サンフランシスコ。
銀行員ジョニー(トミー・ワイゾー)とリサ(ジュリエット・ダニエル)は、7年来の恋人同士。二人は婚約者として同棲生活を送っている。
リサ一筋のジョニーであったが、リサはここに来て結婚に踏み切れないでいる。
そしてあろうことか、ジョニーの親友マーク(グレッグ・セステロ)を誘惑しはじめるリサ。
そんなリサの誘いに、ジョニーの親友として拒み続けるマークであったが・・・・
■ 酷評されたポイント ■
●単純なストーリー
上で簡単なあらすじをご紹介しましたが、あと数行足せば全あらすじを語れてしまいます。なんのツイストもない、単純でありがちな恋愛ストーリーなんですが、しっかり上映時間は99分。
●支離滅裂な会話
とにかく、流れを無視した会話が目立ちます。会話はすべて直接的で、観客に行間を読む間すらあたえません。また、「誰もそんな英語話さないよ・・」というセリフも多く、人々をカオスへと誘います。その場限りでまったく意味をなさない会話も頻出。
●演技がひどい
出演者の演技レベルが低いことで有名ですが、とりわけジョニーを演じるワイゾーの演技力はある意味異次元レベル。目の焦点が合っていないし、棒読みだし、へらへら笑ってばかり。ただし、リサの母親クローデット役を演じた、キャロライン・ミノットの演技は好評。←筆者も心から同意します
●製作コストが異常
600万ドル(6億以上)という多額の製作コストをかけた本作。出来映えは低予算映画と変わらないのですが、映画制作の知識が乏しかったワイゾーは機材をレンタルせず丸ごと購入。プラスとにかく無駄な(と評される)セットなどにこだわりました。劇中で頻繁に登場する屋上も、外ロケで十分補えるのに、実際の建物の屋上を利用せずセットを作ってクロマキー合成。なぜならワイゾーは「これぞハリウッド流」とかたくなに信じていたから。400人以上をスタッフとして雇用、4回もスタッフ総入れ替えしたそうです。
●動きとセリフが合っていない
撮影した映像に、あとから音入れをしたのがすぐに分かります。とくにワイゾー。ベッドシーンの吐息がまた笑っちゃうほどにチープですし、もちろん音と動きはかみ合っていません。
●ベッドシーンが多い
とにかく間髪いれず(観客も休む間もなく)ベッドシーンが映し出されます。そして異様に長い。ワイゾーは自慢のおケツを本作のウリの一つと考えていたため、要らないのにちゃんと全裸で撮影したそう。
●終始ピンぼけ
撮影スタッフもあまりにも酷い映画の内容・演技に、呆れる日々。故に映像チェックは疎かになり、ピンぼけチェックもほぼなかったとか。
●BGMがいただけない
やたらと同じBGMを多用しています。そしてBGMがまったくマッチしていない場面も(例:マークが髭を剃ったことを語るシーン)。
などなど・・・挙げだしたらキリがないですね。
とにかく「支離滅裂」と言われている本作であります。
■ それでも尚、愛される理由 ■
ここまで史上最低という評価を受けながらも、なぜ『ザ・ルーム 』は未だに多くのファンを獲得しつづけるのか。私なりに感じたことを書いてみます。
正直、あらゆる面でひどい映画です。
これは誰もが事実として受け止めています。
でも、なぜか「観てしまう」し、「おもしろい」と感じ、腹の底から笑ってしまう。
こんなにも“支離滅裂なサイテー恋愛映画”だってのに、なぜでしょう・・・?
きっとこういった複雑な感想を抱いている時点で、この映画をサイテーと呼ぶべきではないのかもしれません。
だってどんな形であれ、人々の心を動かすことに成功した映画だから。そう、振り切れ具合がハンパじゃない。
それは監督・主演を務めたトミー・ワイゾーという人物の魅力が、ぎゅっと詰まった作品だからだと思うんですよね。彼の生き方そのものが、尋常じゃないからこそ為せる業とでもいいましょうか。
本作は、ワイゾー本人の実体験をもとにして作られました。リサのモデルとなったのもワイゾーの元婚約者で、本編同様、ワイゾーは何度も彼女に裏切られ、しまいには婚約を解消したのだそうです。
それを知った上でみてみると、『ザ・ルーム 』はワイゾーの人生の一部を描きながら、彼の頭の中をまるっと体現した映画になっています。映画の内容よりも、ワイゾーはバカ素直で優しくて一筋なアツイ男なんだな〜って、彼の人間性になぜか心揺さぶられる効果があります。
とにかく、ワイゾーという人物は多くの謎に包まれています。
↑意味不明なタイトルと謎のワイゾーアップの表紙
生まれはヨーロッパ(フランス?)。
アメリカに移住してきたために独特のアクセントがあります。ルイジアナ州ニューオーリンズが米国ではじめての居住地だった、という情報を唯一公にしています。
年齢は定かでありません。
制作費に6億以上かけているだけあって、超大金持ちです。サンフランシスコやLAのダウンタウンにも部屋を持っています。ハリウッドにも上記の広告サインを掲げ(しかもこれが唯一の宣伝媒体!)、その広告費は月50万以上。しかも5年間も広告を掲げていたそうです。なぜそんなに大金持ちなのか、大金の出所は明かされていません。
そんなミステリアスな男ワイゾーですが、本作製作までにも紆余曲折あったことが伺えます。
「役者としてハリウッドで成功する!」という夢をずっと追い求めていたものの、大根役者にも足らない演技力のワイゾーは役者として評価されることはありませんでした。それどころか、どこへ行っても誰からもお払い箱扱い。
でもそんな彼を、天が見放すわけがありません。
どんなときも自分の “心の声” に正直でまじめな男ですから。
この世で何人の人が、ここまで自分の本心にまっすぐ生きられるでしょうか?
その点でも、ワイゾーが全身全霊でつくりあげた『ザ・ルーム 』は人を惹き付けるものがあると思っています。
まぁ、単純に「おもしろい」んですけど。←真理
本人はいたって真面目につくったというところが、ミソです。
■ ハズせない!見所 ■
もう終始ハズせないポイント満載なんですけど、筆者お気に入りを6つピックアップしたいと思います。
① “ Hi, Mark! ”
ワイゾー演じるジョニーは劇中で、「Hi, Mark! 」というセリフをこれでもか!という位多用しています。中でも一番有名なシーンは、ジョニーがドアを開けて屋上にやってくるシーンでしょう。
「I did not hit her. It’s not true. It’s bullshit. I did not hit her. I did noooot. Oh,hi Mark.」
ここはもはや伝説として語り継がれていますので、要チェックです。笑いの要素が詰まっています。みれば解ります。
②カフェにて
とあるカフェで、ジョニーとマークが銀行の仕事の話をしています。ここでは、その流れをぶった切る唐突の質問があなたを待っています。それが「Anyway, how’s your sex life? 」です。この場面では思わず私も吹き出してしまいました。
③ “You’re tearing me apart, Lisa! ”
ジョニーに冷たい態度をとるリサに対して、ジョニーが放った言葉「You’re tearing me apart,Lisa!」。ワイゾーがジェームズ・ディーン主演のアメリカ映画『理由なき反抗(1955)』の、有名なセリフを引用したことが丸わかりのシーンとなっています。
この場面で彼が演じるジョニーのアツすぎる演技には大注目です。
④花屋にて
ジョニーが花屋でリサに1000本のバラを購入するシーンがあります。ここは私の一番のお気に入りシーンかもしれません。あまりにも早すぎる展開と、いちいち面白いセリフがジワジワきます。何度みても爆笑してしまうし、心がほっこりするシーンです。←観客も忙しい
⑤常にラグビーをしている
ワイゾーは大のラグビー好きなのだろうか・・・。その位、無駄にラグビーボールで大の大人が戯れるシーンが多いです。しかも“超” 至近距離で投げ合うわ、なぜかタキシードに身を包みラグビーをしだすわ、もうメチャクチャもいいところ。そこがいいんですけど。
⑥ニワトリの真似
登場人物はことあるごとにチキン=臆病者という意味合いで「CHEEP CHEEPCHEEPCHEEPCHEEP CHEEP 」とニワトリの鳴き真似をします。しかも振り付きで。なぜそんなに鳴き真似にこだわるのか、誰も知る由はありません・・・
■ おわりに ■
以上、いまや伝説となったカルト映画『ザ・ルーム 』についてでした。
何事も中途半端はいけないこと、それをこの映画を通じて学びました。
ありがとう、ワイゾー。I love ワイゾー♥
ぜひ未見の方はチェックしてみてくださいね。
ジェームズ・フランコ監督の映画『ザ・ディザスター・アーティスト』については、こちらの記事をご参照ください。
ではでは。
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