映画『ババドック暗闇の魔物』その正体とは?ネタバレ感想
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みなさん、こんにちは。
今日はホラー/サスペンス映画『ババドック〜暗闇の魔物(原題:The Babadook)』のご紹介です。
あらすじと筆者の感想にくわえ、ババドックは一体何者なのか?その正体についても考察してみたいと思います。最後にはちょっとした小ネタもお届けします。
Here we go!!
■ ざっくり、あらすじ ■
監督:ジェニファー・ケント
製作国:オーストラリア
ジャンル:ホラー/サスペンス
公開日:2014年11月18日(米)※日本劇場未公開
上映時間:94分
アメリア(エッシー・デイヴィス)は、出産のため夫の運転で病院へ向う道中、交通事故で夫を亡くしてしまう。
息子サミュエル(ノア・ワイズマン)を出産したものの、シングルマザーとして子供を育てあげることに格闘する日々であった。元々絵本作家であったアメリアは、生活のため今は老人ホームで働いている。
6歳になったサミュエルは落ち着きのない子。いつもモンスターの存在におびえ、それを克服しようと周囲に攻撃的になってしまうことで、学校でも問題児扱いである。
学校からも見放され、アメリアの友人たちからも距離を置かれて孤立していく二人。
そんな中、息子のサミュエルが家のどこからか一冊の本を持って来た。その本は“ババドック”という、家の暗闇に潜むモンスターについてのお話であった。サミュエルにも良い影響は与えないと、アメリアはその不気味な絵本をすぐに棄ててしまう。
しかし、何度も戻ってくる絵本。
誰にも打ち明けられることが出来ないまま、やがて二人はババドックの世界に飲み込まれていく。
■ ネタバレ感想 ■
ここアメリカでも本作、とりわけ “ババドック”というキャラクターがウケていたので、存在は知っていた筆者。でもなぜか「ホラーとかいう割に怖そうじゃないな〜」と思って、喰わず嫌いだった作品です。タイトル可愛いし。
なんていいつつ、実際観てみたら・・・
あら、おもしろい。いいじゃない。
↑キャラ定まらず
海外ホラー映画にありがちな心臓飛び出るようなジャンプスケアではなく、じわじわ迫り来る恐怖感がうまく描かれています。鮮血が吹き出すような目立ったグロシーンもなく、人によっては物足りなさを感じることもあるでしょう。
私自身そういったスプラッターものも鑑賞しますが、こういう終始くら〜い重々しい雰囲気で淡々と進んでいくのも好きなので、飽きもこず最後まで楽しめました。
二人暮らしには異様に広い家、最低限のものしか置かれていない寝室やキッチン、そしてグレーなどの暗色で統一された壁色。こういった視覚から、「物哀しさ」「孤独」が感じられて◎。ほんと色味って大事よね〜。
《こんな暗がりで誰が食事をしたいだろうか》
『仄暗い水の底から 』など、日本のホラー映画に近いものを感じました。米ホラー映画『インシディアス』にも色味が似てましたね。
私には肝心のババドックは怖くなかったんですけど(むしろ絵本のババドック可愛い)、アメリアの生気無いやつれた顔が妙に怖かったです。特に老人ホームでビンゴゲームを担当するアメリア。あんなに辛そうにビンゴマシーンを回す人が、どこにいるでしょうか。
おじいちゃん、おばあちゃんの方がよっぽど元気。
髪はボサボサで化粧っけもないアメリアと、仕事着や私服で彼女が着るピンク色の服がとても対照的でした。ピンクは着る人を選ぶぶおそろしい色だということも再認識・・・(かくいう筆者もピンクの服は持っていない)。
そんなこんなで、隣人のおばあちゃんと見事に気持ちを共有するわたしなのでした。心配だから何かあったら頼ってちょうだいね、と私はただの世話好きなのか。
とにかく本編は、タイトルになっている“ババドック”の出番は少なく、母アメリアと息子サミュエルの親子関係が中心のお話となっています。それ故、二人の演技力に本作の出来がかかってくるわけなんですが・・・
二人ともすんばらしい演技でしたね。
というよりも、演技以前に容姿含めた存在感が際立っていました。
《アメリア⇒わんこ⇒サミュエル⇒隣人の優しいおばあちゃん》
どうでもいい話しますが、みんな肌の色が白い。わんこまで白い(可愛い♡)。サミュエルもばあちゃんも、みんな白い。本当どうでもいいかもしれませんが、この「血色のなさ」がまた良い味だしてる〜と思いました。
うちの主人にいたっては、「アメリアの脚白すぎない?」とまで。おい、アメリアは白タイツ着用でっせ。まぁ、このぐらい白い人いますけれども。
それからアメリアを演じるエッシー・デイヴィスが、本作ではちょっとキャメロン・ディアスに似てるな〜と思ったり。高い頬骨とかそっくり。髪色とメイクでこんなにも雰囲気が違いますが☟こういう柔らかい感じだと、あら美人さん♡
と、くだらない話はさておきまして。
序盤では優しい母親として描かれ、ババドックに侵されてからはサミュエルを強い口調で罵り始めるアメリア。この時の彼女のすさまじい表情と声には、大人の私でもビビりました。なによりわんこのシーンは見るに耐えず。
しかし終盤でのアメリアVSサミュエルの攻防には、思わず「こう来たか!」と沸々笑いが・・・サミュエルが隠れている部屋のドアをアメリアが叩くときの、ドスの効いた声が忘れられません。デイヴィスさんならきっと、ヘビメタバンドのVo.が務まるかもしれない。そうに違いない。
か・ら・の!
アメリアがドアの縁に両手でぶらさがって両足でドアを蹴り開ける、あのアクロバティックシーン。母ちゃん、強し!(意味違う)
そのあまりの迫力と、予想だにしなかった母子(&ババドック)の闘いに、ホームアローンを想い出し吹き出してしまった筆者なのでした。サミュエルが緻密に計算してつくった仕掛けが賢くて、「サミュエルやるやん 」と頼もしさを感じたのは私だけではないでしょう。母ちゃん縛り付けるなんて、やるな。
ババドックに侵され狂気の沙汰のアメリアに対し、サミュエルが「ママを絶対に置いて行かないよ 」と愛を持って語りかけるシーンには、思わずうるっと来たほど。さっきまで大笑いしていたのに・・・なんて忙しない映画なんだ、まったく・・・うぅ(涙)。
ここ最近観たホラー/サスペンスとは、また異質のオリジナリティ溢れる作品だと思います。そういう意味では、非常によくできた良質で、まじめな映画といえるでしょう。
■ ババドックの正体とは ■
映画鑑賞中は、とくに何も考えることなく観ていたわけですが・・・・最後の「餌やり」シーンで困惑。そしてババドックとは何者か?を考えてみることに。
思うに、ババドックはアメリアの別の人格かなと。内なる狂気みたいなもの。
精神に支障を来していたアメリアにしかみえない、実体のない幻のようなものを彼女は見ていたのでしょう。だからキッチンの壁穴&ゴキブリなんかも、彼女以外の人にはみえなかった。
最愛の夫をなくした傷が癒えきれないまま、息子のサミュエルを女手一つで育てなければいけないのに、サミュエルはいわゆる手のかかる子。周囲からも距離をおかれ、だれも分かってくれない彼女の壮絶な心の痛み。そしてまた、アメリア自身もその痛みを誰かに打ち明けようとはしない。
そんな風に、起きてしまった出来事への「負の感情」に蓋をしてアメリアは生きてきたのでしょう。でも蓋をすればするほど、感情というものは暴徒と化してしまうもの。
みなさんも、経験があるのでは?
たとえば、失恋。
死ぬほど好きだった人に急にフラれて、あなたは絶望の淵にいるとしましょう。そんなとき、いつも笑顔のあなたは周囲に悲しみを悟られまいと、職場でも気丈に振る舞うのです。でも胸の奥がチクチク痛むのには気づいています。そして高熱が出る風邪なんか引いちゃったりして。
でもそんなときに、「○○、どうしたの?元気ないじゃん? 」と心配してくれる友人が現れます。カラ元気でしかなかったあなたは、腹の中に溜まったドス黒い想いを友人に吐き出して、思い切り泣いて、そして散髪(散髪て)にも行って、ようやく未練を断ち切ることができるのです。
つまりは、一度「負の感情」と向き合う必要がある・・・
でないと、人生を通してなんどもその感情が自分を苦しめてくるんですよね。
語ってしまいました。
ここで想い出してほしいのが、絵本の中のババドックの台詞。
THE MORE YOU DENY, THE STRONGER I BECOME
ババドックはその存在を拒めば拒むほど、強力な存在と化していくことがきちんと描かれております。アメリアが妹に「I have moved on. I do not talk about him anymore. 」と言い放っていることからも、アメリアがみずから亡き夫の話題には触れないよう、負の感情に蓋をしている事が分かります。
結果、彼女の内なる狂気=ババドックに支配権を握られてしまった。でもやがて、アメリアは息子の愛に支えられ、ババドックに宣戦布告をする・・・!ここで本来の主導権を奪還したアメリアは、ようやく「母親」になることができたのでしょう。
とはいえ、ババドックはアメリアの一部なわけですから、いなくなったりはしないわけです。でも存在を否定せず、うまく飼いならし共存していくことはできる。それが最後の餌やりのシーンに繋がっているのだと、解釈しました。
そもそも、ババドックへの餌やりをしているのはアメリアだけであり(※参照:「大人になったら見せてあげる」とサミュエルに伝えるシーン)、これも彼女の幻であると説明がつきますよね。
一度狂った母親をみたサミュエルですから、母親がババドックに餌やりをしているという話も、すんなり受け入れられるでしょう。医師の台詞にもあったように、多くの子供がお化けをみる(妄想する)ものだというのもポイントになってくるのかもしれません。
それから、アメリアがかつては絵本作家だったということ。これを敢えて彼女が語っているということからも、彼女がババドックの絵本の作者であることも想像できます。絵本には彼女もサミュエルもちゃんと登場しているし、何よりこれで絵本が棄てても家に戻ってくることにも納得がいきます。途中から絵本のページが白紙なのは、書きかけだったのでしょう。
ということで、ホラーというよりヒューマンドラマといえる深い作品だと思います。私は好きです。
■ 本作にまつわる小ネタ7連発 ■
①母親アメリア役のエッシー・デイヴィスと、女監督(&女優)ジェニファー・ケントは同じ演劇学校に通っていた
②監督曰く、どれだけ依頼があろうと続編はなし!
③本作は、『エクソシスト』の監督ウィリアム・フリードキンに「未だ嘗てこんなにぞっとする映画をみたことがない」と言わしめた
④ヘブライ語で “ba-badook” とは “He’s coming for sure(彼は確実にやってくる)”という意味。
⑤アメリア役デイヴィスの罵倒シーンでは、サミュエル役のワイズマンをセットから外し、代わりに罵倒をうける役に大人を起用した。これは当時6歳だった子役のトラウマにならないように、という監督の配慮から。
⑥Netflixが本作を誤って「LGBT映画」としてカテゴライズしてしまったことから、ババドックがLGBTコミュニティの象徴やミーム(meme)になり、思わぬ形で再び注目を浴びることに。
⑦実際にババドックの絵本が一つずつ手で造られ販売された。初版は80ドルの2000冊限定で、監督のサイン入り。ebayなどで限定版の転売もみうけられるが、高値(600〜800ドル)での取引になっている。
■ おわりに ■
以上、『ババドック〜暗闇の魔物〜』のご紹介でした。
いかがでしたか?
これを書きながらも、またアメリアのドア蹴りを見たくなってきた筆者なのでした。
では、また。
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ゴールデンウィークだというのに、嫁と息子は出掛けてしまい、居間でホラー映画を観てました。ラスト(餌やり)が気になって検索したところ、こちらのサイトに辿り着いた次第です。
私も、極めて内面的な話だったなぁと言う感想です。『リング』や『フッテージ』のラストでズコーっと転けた私にとっては大変楽しめました(楽しんで良いのかな…)。
ご指摘されてる、劇中の色味の無さとナース服の対比、細かい部分ですけど、観客に違和感や妙な白々しさを植え付ける上手い手法ですよね〜。
とても読みやすい感想でした。ありがとうございました。
exviceloverさん、
はじめまして&コメントありがとうございます。
返信が遅くなってしまい申し訳ありません!
GWは私も日本に帰国しておりました。GW中の家での映画鑑賞、最高ですね〜♪やっぱりラストの餌やりシーンは、「ん・・・?」と謎解きしたくなる展開ですよね。考えるほどに、やっぱり内面的なお話ということに帰結してしまいました。真偽はわかりませんが、多角的に楽しめる作品だと思います♪
読みやすいと言って頂けてとーっても励みになります。ありがとうございます!超不定期更新ですが、またいつでも遊びにいらしてくださいね。